げつようび

 こんな夢を見た。
 暗闇の中に火花が走る。じっと見つめようとしても、火花は忙しなく消えてはまたすぐに走り、どうにもその姿を捕えておくことができない。ムキになってまぶたに力を込めて、そこで初めて己が目を閉じていたことに気がつく。
 僕は赤ん坊になっていた。赤ん坊であったことは記憶にないので、なっていた、と言うべきだろう。
 そうと知らずに開いたまぶたの向こう側は滲んでいてよく見えず、ひたすらに眩しいことだけが分かった。綺麗だ。とても明るくて、輝いていて。
 手も足も短い上に頭が重たいから、からだは全く動かせそうにない。辺りも見回すこともできない。でもなぜだか、不安な気持ちはまったくない。
 別にしようと思ったわけでもないけど、気がつくとあくびをしていた。口を大きく開いて、代わりにまた瞳を閉じて。ゆっくりともう一度目を開けたとき、新しい色が視界に飛び込んできた。澄んだ青色。深い深い海の色。僕がよく知っている色。
 青色の主がそっと僕を抱き上げる。指先はあたたかくて、いい匂いがした。それに、キラキラしている。白い肌のどこもかしこも、世界の光のすべてを柔らかく反射しているみたいに、うすぼんやりと輝いて見えた。
 だんだんと世界の輪郭がはっきりしてくると、その人がりんねであることがわかった。僕の片割れとも言える人だ。本当は僕も彼女も人間じゃない。でも今ここでは、多分、人と呼んで良いのだと思った。
 りんねは僕をそのままふわりと腕の中に抱え込んだ。赤ん坊を抱えるというよりは、ハグをする、といった風に。赤ん坊の僕は当然、彼女の背に腕を回すこともその唇に口付けることもできず、ただハグを享受する。
 彼女は何も言わず、小さく歌を口ずさんでいた。詞は聞き取れない。ただ旋律をなぞるだけのそれが却って心地良い。まっさらな世界の中に彼女の歌だけが響いていた。
 このまま無限に時が過ぎるような気がした。いや、過ぎればいいな、と思った。キラキラしていて、あたたかくて、いい匂いがして、大好きな彼女がいて、そんな世界にこのままいられたならと、確かにその時僕は思った。
 そして分かってしまった。ああ、夢か。
 りんねの声が聞こえた。
「生まれてきてくれてありがとう」
 シャボン玉が弾けるみたいにそこで夢は終わってしまったから、その声の色はもう思い出せない。

NEXT

TEXT TOP